元通りに戻っても元に戻らない!?
今取り組んでいる裁判の対象になっている金融商品で興味深いものがあります。
この商品は,「NEXT NOTES 日経・TOCOM 原油 ダブル・ブル ETN」といいます。ザックリ言いますと,
この商品は「原油」に連動します。
単純に連動するのではなく,「原油の騰落率の2倍」に連動します。
どういうことかと言いますと,当初の原油価格を100,この商品の価格も100として
①原油が10値上がりして110になると,
(110-100)×2=20,100+20=120
で,原油が1割値上がりするとこの商品は2割の利益(120)が出ます。
逆に,
②原油が10値下がりして90になると
(90-100)×2=-200,100-20=80
で,原油が1割値下がりすると,この商品は2割の損失(80)になります。
ここまではいいですよね。
私の依頼者は,「万一原油が値下がりすると,2倍の損失を被ることになるが,いつかは原油が値を戻すだろう。回復局面では2倍の利益が出るので,原油が元の価格まで戻ればこの商品も元に戻るだろう。長期的に見るとリスクはない。」と考えて,この金融商品を買いました。
少し前の私も同じことを考えたと思います。
依頼者がこの商品を購入後,原油は大きく値を下げてしまったため,気長に原油の値上がりを待つことにしました。
予想どおり,原油の価格は回復してきました。
(Investing.comのウェブサイトより)
まさにV字回復。
ところが,依頼者が購入した金融商品は回復しませんでした。
(「ETNなら野村のNEXT NOTES」ウェブサイトより)
なんで!?
私の依頼者も「なんで値上がりしないの?」と疑問に思って,私の事務所に来られたのです。
調べてみたところ,複利効果が影響しているとのこと。
先ほどの例で,原油が1割値下がりした後に,1割値上がりしたと考えると,
100-100×0.1=90,90+90×0.1=99
で,原油は99まで回復するのに対し,この金融商品は,
100-100×0.1×2=80,80+80×0.1×2=96
となり,99まで回復しません。
下落したものにレバレッジが掛かっていると,その後上昇した分にレバレッジを掛けても同じ分だけ戻らないのですね。
私も未だに分かったような分かっていないような状態です(汗)。
先ほどの「ETNなら野村のNEXT NOTES」ウェブサイトにも,
一般に、「日経・東商取原油指数」の値動きが上昇・下降を繰り返した場合に、マイナスの方向に差(ずれ)が生じる可能性が高くなります。また、一般に、期間が長くなれば長くなるほど、その差(ずれ)が大きくなる傾向があります。
という注意書きがあります。
ただ,依頼者がこの商品を購入した時点ではこのような注意書きはなかったそうです。
どうもこの商品は長期的に保有すると損失を被るような特性がありそうです。
今回の裁判では,この点の説明義務が尽くされていないとして勧誘を行った証券会社に対して損害賠償請求を行っています。
被告の証券会社は「複利効果は常識で考えれば分かる」というような主張をしているのですが,これは考えても分からないのではないかと思います。
皆さんはいかがでしょうか。
投稿者 吉岡 康博 | 2019年2月15日 20:37