通貨オプション
通貨オプションとは,あらかじめ定められた一定の価格で外貨を売買することを契約することをいいます。
2004年から2007年ころまで,円安が進行したのですが,当時,大手の銀行は,顧客に対して,円安時に利益を享受できる商品として,中小企業を中心に,通貨オプションを大量に販売しました。
通貨オプションの場合,顧客が将来外貨を購入する価格を現時点で決定しておくため,為替が円安になればなるほど,顧客が安価で外貨を購入でき(その時点で市場で外貨を売却できればその差額が利益となる。),逆に円高になればなるほど,高額で外貨を購入せざるを得ないため,損失が拡大することになります。
2008年のリーマンショック以降,急激に円高が進んだため,多額の損失を被る優良な中小企業が続出することとなりました。とりわけ,通貨オプションは,長期間にわたって定期的に外貨の売買をすることが決められるため,顧客である中小企業は,期限ごとに高額の外貨を購入せざるを得ず,その都度損害が発生することになります。
また,これらの契約を解約するには莫大な解約金が必要であるところ,そのような資金を調達できないまま,外貨を購入し続け,本業が順調であるにもかかわらず,通貨オプションで多額の損失が発生して赤字になる,場合によっては会社の維持が困難になるという事態すら発生しました。
通貨オプションでは,円安が進めば利益が得られる一方で,円高になれば為替相場の2倍ないし3倍に比例した損失が発生するというリスクがあります。
そもそも通貨オプションは,条件が複雑であり,リスクを把握しづらい上,長期間にわたった契約であるにもかかわらず,そんなに先の為替を予測することは極めて困難であると言われています(機関投資家ですら予測できるのは半年程度であるとも言われています。)。
一方,円高が進んだ場合,購入者である中小企業は,高額で外貨を購入し続けるか,高額の違約金を支払って契約関係から離脱するかの選択肢しかなく,極めて大きなリスクを背負うこととなります。
加えて,購入者のリスクとリターンを均衡化させて商品設計するのではなく,手数料をゼロにすることを基準に設計されるため(ゼロコストといいます。)リスクに見合ったリターンが得られているのかという問題があります。
こんな点が違法行為!
- ■適合性原則違反
- 上述のように,通貨オプションは,円高が続いた場合に購入者が大きな損失を被る危険性があり,また,解約金が莫大であるという問題があります。 加えて,本来通貨オプションは,貿易会社が為替リスクをヘッジするために行うものであるにもかかわらず,ヘッジの需要を超えた量の取引を勧誘されていることもあります。 中小企業は一般消費者とは異なるとはいえ,そのような事情がある場合は,その企業の適合性原則に反した取引がなされていると考えるべきです。
- ■説明義務違反
- 長期にわたる為替変動を予測するのが極めて困難であることから,契約時には,将来,顧客にとって最悪のシナリオが生じた場合にどの程度の損失を被るかについて,過去の為替チャートや損失の具体的な数値を示すなどして説明する必要があると考えられます。 また,当時は,解約金の額について具体的な説明がなされていなかったケースも多く,この点について説明義務違反を主張することもできると思われます。
- ■断定的判断の提供
- 説明義務違反とも関連しますが,十分なリスクを説明しない一方で,「今後も円安が継続する。」といった見込みだけを示して通貨オプションを勧誘した場合は,投資判断を歪められる恐れがあり,断定的判断の提供の問題となることがあります(ただし,実際の裁判では言った言わないの水掛け論となることが少なくありません。)。
解決法
通貨オプションについては,相手方が銀行ないし証券会社となるので,損失補填禁止(金融商品取引法第39条)との関係で,示談による解決は極めて困難です。
適合性原則違反が明らかであるような場合は,FINMAC(証券・金融商品あっせん相談センター)や全国銀行協会のような仲裁機関を利用することも有効ですが,一定以上の損害回復を求める場合や,事実関係に争いがあるような場合は,民事裁判を使う必要があります。
いずれにせよ,高度な判断が必要な事案ですので,投資被害に関する経験のある弁護士に依頼することがベストです。